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971中国通俗小説の巨匠・張恨水(その6)――金粉世家

Photo_5 本格的に小説を書き、小説を専業としたのは、《金粉世家》が最初である。 この小説は、1927年北京《世界日報》に連載された。 1932年に完結。 全長約百万字。

小説は、上流階級のある一族から離縁された女性を発端に、この一族の盛衰を描写している。 この本の目的は、北洋軍閥の下での官僚達の権力闘争、そして、彼等の贅沢三昧な生活を暴露すると共に、彼等の家庭の中の寄生虫のような連中が、何をするでもなく生きてるさま、ただれたような堕落した生活を描いている。

Photo_6 小説の舞台は、金という国務総理の家庭。 そこで、多くの高官達、特に国務総理経験者、中でも姓が“銭”という人は、自分が書かれていると思い込み、自分の秘密が暴かれるのではないかとひたすら恐れていた。 実際、彼は新聞記者であるし、友達も多く、普段雑談の時など、上流社会の生活を話題にすることもあり、その中からいくつかモデルを選択して、金という一家を作り上げたのだ。 だから、みんなが想像している人、誰もが誰かに似ていた。

《金粉世家》は、彼が書いた小説の中で、構成が一番きっちりしている。 これ以前の著作は、興味が湧くと筆を執って書くという程度だった。

Photo_7 《春明外史》は名作であるけれど、楊杏園の物語以外は、大半はいつでもニュースがあると、すぐ小説に取り入れる。 だから100回でも、200回でも書くことが出来た。 文章の構成がどうのこうのの問題ではない。 《金粉世家》を書くに至って、念入りに準備し、万全な計画を立て、小説家としての意識で小説を書くようになった。 例えば、金家の人々のそれぞれの好み、性格の違い、複雑に錯綜する物語のあらすじなど事前に考えていた。 物語は、ありふれた家の娘・冷清秋と国務総理の息子・金燕西の恋愛、結婚、離婚、別離の悲しい結末を描いている。 メインテーマは、“釣り合わぬは不縁のもと”であって、これは彼の結婚観である。 彼が、“家柄や財産などが釣り合うべき”だと主張したかったのか? それは、わからない。

Photo_8 小説が新聞に連載されると、読者の注意を引き付けた。 皆、上流階級の私生活や官界の内幕を知りたがったからだ。 また、物語の筋が面白く、興味津津で、女性たち、老太太達の圧倒的評判を呼んだ。 抗戦中の重慶で、張恨水は、彼の読者の----太太、老太太達から、次々にあれこれ質問された。 この小説の人物の処理の当否、また、小説の背景と登場人物のその後の結末はといったことなどだった。

一小説で、発表から何年も経ってから、なお読者にこのように関心を持たれるとは、これから見ても尋常の作品でないことがわかる。

*金粉世家《作品内容紹介》

この小説は、1927年2月14日から1932年5月22日まで、北京《世界日報》副刊“明珠”に連載された。 112回、全長約百万字。

小説は、第一人称の手法で始まる。 春節間近、私は偶然書画を売って生活している中年女性・冷清秋に出会う。 私は、没落した金家に家庭教師の仕事を世話しようと考えた。 しかし、私が金家の状況を彼女に説明しようとした時、彼女はなぜか断った。 しかも、その後すぐ引っ越してしまった。彼女と金家にはつらい悲しい関係があったのだ。

Photo_9 学者の家柄出身の冷清秋は高校の時、政府国務院総理兼某銀行理事長・金鈴の息子、燕西に見初められる。 18歳の燕西は、この容貌抜群の冷小姐を何とか手に入れようと、あらゆる手を尽くした。 最初は、金に糸目をつけず、冷家の隣のアパート一棟を買い上げたり、最後は風雅を装い、詩社を作り、弟子入りの名目で冷清秋のおじさんに取り入ったり、また、同時に冷家にも誠実さを見せつけた。 燕西はもともとは、二番目の兄嫁・王玉芬のいとこ・白秀珠と仲がよかったのだが、彼が一途に冷清秋と結婚したがっているのを知り、白秀珠は自分の兄が軍部に顔が利くのを頼りに、怒りのあまり燕西と別れる。 燕西は冷清秋をPhoto_10 どこまでも追い回し、ある時、西山へ遊びに出かけた帰り、わざと時間を遅らせ、城内に戻れなくしてしまう。 冷清秋と外で一夜を過ごすことになり、その後、冷清秋はやむなく燕西と結婚することになる。 王玉芬は、自分を頼りにしていたいとこの白秀珠が、金家で確固たる地位をとの目的が達せられず、冷清秋に対しては、何事にもケチをつけいじめ、燕西に対しては経済面で支配した。 燕西は、清秋を手に入れてしまうと、彼の情熱は消えてしまったばかりか、彼女を重荷に感ずるようになった。 冷清秋が産後間もない頃、燕西と京劇女優の密会現場に偶然出会ったことがあった。 燕西は自分のことは棚に上げ、怒り出し、手を上げて冷清秋をたたいた。 清秋は怒りのあまり倒れてしまった。 燕西はこの頃、また気持が変わって白秀珠を追っかけていた。 白秀珠の兄を頼って出国しようと考えていた。 清秋は、金家の仕打ちに我慢できず、金家から逃げ出し、自分の姓名を隠し、別に生活の手立てを探していた。 金鈴が死亡した後、金家は混乱に陥っていた。 その混乱の中、金家は火事を起こし衰退していく。 燕西は懸命に白秀珠に取り入り、なんとか出国の機会を得ようとしていた。 異国に流浪していた燕西は、悪い行状が改まらず、白秀珠に見捨てられる。 やむなくダンサーの邱席珍に助けを求め、海外の映画界に身を投じ、かろうじて暮らしを立てていた。 同じ頃、冷清秋は、自分の子供と老使用人と生活を共にし、書画を売って生活していたが、決して金家の門をくぐることは考えていなかった。

主人公の冷清秋は、作者が同情を寄せる人物で、その生活・経験と思想から見て、彼女は作者の一貫した処世哲学“自分の汗を流して、自分のご飯を食べる”の実践者である。 しかし、彼女の“無欲至上主義”の忍耐哲学は、あの当時の社会ではあまりにも弱々しい。 張恨水は、《私の創作と生活》の中で、《金粉世家》は、“金鈴総理一家の人の世の有為転変、酒色に耽っている生活を書くと共に、金燕西と冷清秋夫婦の恋愛、結婚、反目、別離を、全編をつなぐ筋道として、また、金鈴とその妻妾、四人の息子達、四人の娘達、息子の嫁達、娘の婿達の精神構造、寄生虫式の生活を描いた。 もとより、当時の官界と一般の上中層の社会の様相も反映していた。 《金粉世家》は、《春明外史》より芸術的描写が勝っており、張恨水は更に大きな名声を勝ち取った。 読者の中に、ついには“金粉世家ファン”が現われた。 この現象に対して、張恨水自身は比較的客観的見方をしていた。 “「金粉世家」の売れ行きは、遥かに《春明外史》を越えている。 これは、《春明》がよく書けているのに、なぜではなくて、「金粉世家」の方が、物語の展開が早く、登場人物もにぎやかで、そして哀愁もただよっているからだ。 これが、社会の小市民層が読んだ後、とても親近感を持ったのだろう。 特に、女性たちが、この小説を喜んで読んでくれた”

《参考》

20  中国通俗小説の巨匠張恨水  (その1)-最新テレビドラマ紹介:

21 中国通俗小説の巨匠・張恨水 (その2)-人物紹介: 

26 中国通俗小説の巨匠・張恨水 (その3)-代表作品紹介(上):  

969  中国通俗小説の巨匠・張恨水 (その4)-代表作品紹介(下)April 15

 970  中国通俗小説の巨匠・張恨水 (その5:   April 16《春明外史》

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